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by luxemburg
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九条の会



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結城昌治『軍旗はためく下に』(中公文庫)
 私の読書至難じゃない指南役の華氏451度さんが、私は本を読まないといっているのに読めとおっしゃったので、嫌がらせかそれでも読む価値があるという意味なのか半信半疑で、いやいや読み始めた・・・ら、その迫力に引き込まれるように一気に読んでしまった。



 基本的に文学的素養が皆無のため、読後感はいつも「だから何なの?」(要するに理解できない)。何かが伝わったときでも、妙な切なさばかりが残って、昔カルピスを飲んだあとに残るあのいがらっぽいようなものと同様のつっかえた感じ。甘くて酸っぱいんだけどどうもダメ。
 それでも酒と本を薦める人は非常に多くて、時々は読んだ。小説などの方が宗教がよくわかるよ、といわれて読んだ遠藤周作の「沈黙」。キリスト教は次々弟子がねじ曲げてきたが、ここまでねじ曲げたら正反対の方を向いちゃってんじゃないの、とがっかり。
 大人になってからすすめられるのは司馬遼太郎で、心底軽蔑している目上の人と酒を飲むと必ずすすめてくる。ちまちましたやつほど「俺の空」(マンガです、すみません)を読んでなんだか自分までスケールが大きくなったような勘違いをして白昼夢にふけるのだが、それのオヤジ版が司馬遼太郎。仕方なく読んだこともあったが、生理的にダメ。
 佐高さんは明確に司馬遼太郎が嫌いという人で、やはりそういう人がすすめる本は面白かった。華氏451度さんもそういう人だから(まさか佐高さん?でも彼は「酒なし飲みニケーション派」だった気がするから違うか)、勝手に読書指南役と思っている。

 その華氏451度さんがお薦めの「軍旗はためく下に」を読んだ。内容は、陸軍刑法で軍法会議にかけられ、虫けらのように始末される、末端の人間を描いたもの。一種のオムニバスのように5つの話に分かれている。戦場という極限状態といえばそれまでなのだが、なんだか現代社会を反映している。後書きで五味川純平さんもそのことを書いておられる。
 何の事件だったか忘れたが、警察官が現場で何かにひるんで一瞬身を引いたか何かの映像があって、それを見た首相が、警察官がそういうことでどうする、などといったことを思い出した。
 これが戦争中なら、貴様それでも帝国軍人か、最後の一兵になっても戦え、絶対に退くな。といいながら自分は毎日ピンハネした食料をたらふく食って女遊び。首相経験者の中に戦争のときが一番楽しかった、今の若い人は戦争がなくてかわいそうだ、といった人がいたが、格差社会の行き着く先が戦争。好きなだけ国家に寄生して、おもしろ半分に気が済むまで人を殴り、食料もカネも女も戦争だから手にはいる。だから政治家は戦争が好きなのだろう。
 日本軍のそんな実情について最初に知ったのはルース・ベネディクトの「菊と刀」だが、どちらかというとそれは情報としての日本軍の姿だった。その現場にいる者の視点から不当性を描いた「人間の条件」は大作だが私にはちょっと立派すぎる感じも持っていた。
 「軍旗はためく下に」は、従軍した人の体験としてある意味ではどこにでもいそうな、小心でできれば早く家族の元に返りたい、とだけ考えている普通の兵士が、ある意味でありふれた事件で、ありそうな反応をするが、それが軍隊ではダメなのだ。
 人間の条件は、誰が見ても超人としかいいようのない主人公が、戦争の現実の中で人間らしさを求め、それ故に事件に巻き込まれ、それでも人間を貫こうとする、ある意味で極地の探検家がすごい体験をする物語といえるが、「軍旗はためく元に」は普通に生活し道を歩いている小市民が遭遇する不条理とでもいうべきものを描く。その怖さは、極地に行った者がさもありなんという危険な目に遭うのとは違う怖さと現実味を持って迫ってくる。
 この戦争の、そして軍隊の現実が我々の日常からかけ離れたものではなく、この世界の縮図として現れるのであれば、我々の住む格差社会は緩やかな坂で戦争とつながっているということなのだろうか。

 どうでしょう、先生。こんな程度の感想文で。え、不合格?そんなぁ。

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by luxemburg | 2006-08-28 22:51
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