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宰相の器--安倍晋三にそれがあるのか
 安倍晋三氏は、自分の任期中の憲法改正を掲げている。21世紀の新しい憲法というが、実際にそのような将来を見据えるうつわを持った人間なのか。
 押しつけ論の間違いということを以前に書いたけれども、今回は「昭和の三傑」(堤 堯・集英社2004年)の記述からいくつか拾って考えてみたい。



◆ 幣原の腹芸で9条が成立
 そもそも、9条についてはは幣原の発案によるものか、マッカーサーが押しつけたのか。この問題はかなり曖昧だった。
 憲法の教科書では、結構幣原を匂わせる見解が強かった記憶があるが、「昭和の三傑」では、同様の見解をとり、幣原がそれを考えるようになったきっかけは彼が街で国民の声を聞いたことから始まるという。
「なぜ今回の戦争に突入しなければならなかったのか、納得できない。政府や軍部は楽観的な報道のみを掲げ、無条件降伏の状況に迫っていたことなどひとことも公表しなかった。国民に目隠しをし、屠殺場に追い込む牛馬と同じ扱いではないか。」
 この街の声を聞いた幣原は、「国民が子々孫々、その総意に反して戦争の渦中に引き込まれることなきよう、憲法の根本的改正によって、国政に対する国民の指導権を強化する他なきことを信じた」(伝記「幣原喜重郎」1955年)(P51)。

 一方のアメリカは、SWNCC(国務省訓令)228号で、日本の憲法改正についてアメリカ政府の方針を示したが、この中には日本の非武装化についての項目はなかった。むしろ「天皇は軍事に関する一切の権能を剥奪」としており、むしろ軍隊の存在を前ていとしていたとも言える(p72)。
 そうすると、本当のところは二人しか知らないとはいえ、以上の状況証拠から考える限りでは、幣原の発案ということになりそうだ。
 幣原は、9条について「世界は私たちを非現実的な夢想家と笑いあざけるかもしれない。しかし100年後には私たちは予言者と呼ばれますよ」といったという(p59)。

 しかし、憲法制定の過程では、幣原は徹底してアメリカの押しつけがあって、これを飲まないと日本は、アメリカの支配を離れて極東委員会、すなわち連合国全体によって裁かれることになる、そうなれば天皇の身に何が起こるかわからない、だからこれを飲むしかないんだというポーズをとってとにかく9条を通すことを優先した。
 引き継いだ吉田もまた、GHQとは、Go Home Quicklyの略という話もある。速く出て行ってもらうためには、日本が平和国家に生まれ変わったことを示す必要があると語っていたという(p153)。

◆ 憲法9条を盾に日本人の命を守る
 吉田が首相の時代になって、日本の独立に際し、ダレスは「日本が独立するには再軍備が必要」と要求する。それに対して、吉田は「憲法9条の関係で再軍備は不可能。それに今の日本は経済的にその余裕はない、労働争議が激化し日本は共産化するがそれでいいのかと脅してみたり、のらりくらりと野党がうるさいだのなんだのとアメリカの要求をかわし続ける。
 誰が見ても間違いと分かり切っていたイラク戦争に先頭を切ってしっぽを振り、国会での追及をのらりくらりかわす、「ぶれないポチ」となんと違うことだろう。
 吉田は警察予備隊の創設自体は受け入れつつ、アメリカ側が32万という規模を提示したのに対し11万と値切る。憲法9条はアメリカが押しつけてきたんだから今さら再軍備はないだろう、と幣原の腹芸を最大限に利用した形になった。
 のちにニクソン副大統領は「日本の憲法に戦争放棄条項を挿入させたのはアメリカの誤りだった」(p112)という。
 実際、朝鮮戦争の死者は、韓国133万、北朝鮮250万、中国100万、アメリカ6万。どう考えてもアメリカは、あの勇猛な日本軍を再編成して突撃してもらいたいと思ったことだろう。しかし、憲法9条は日本人の命を守った。
 韓国を戦場にして日本がさんざん儲けることになった朝鮮戦争。もちろん戦争を利用して復興すること自体はほめられることではないが、9条がなければ日本人は確実に死んでいる。
 吉田はいう、知恵のないやつはアメリカに占領されているというだろう、しかし、知恵のあるものは番兵を頼んだと思えばいい(松野頼三「保守本流の思想と行動」p183)。
 なお、私は「番犬」だと思っていた、だからその仕返しに今ポチにされているのだと。しかし、もとの発言は番兵だったらしい、あとで椎名が間違えて引用して「番犬」といってしまって問題化し、あわてて「番犬さま」と言い直したという。
 日本にもせめて「ポチさま」といって欲しいものだ。

◆ 引き継いだやつが日本を暗黒の世界へ
 さて、これを引き継いだやつは、あまりほめられたものではなかった。岸信介は、のちに「ここだけの話だがね、自衛隊、ありゃぁ違憲でしゅよ。憲法を素直に読めば、誰だってそう考える。考えない方がおかしい」と語っていたというが、こういう人間が首相となるあたりから日本の政治家の質が変わってきたのだろう(p66)。
 さらに岸は「ミサイル攻撃に対して、敵の基地をたたくこともあり得る」「防御用の小型核兵器を保有することは、我が国の憲法に違反しない、合憲である」という。
 これは、今安倍晋三がいってることと全く同じ。21世紀の新しい憲法なんてえらそうなこといって、何のことはない明治生まれの言葉を繰り返す、壊れたテープレコーダーに等しい発言だ。
 幣原や吉田を崇拝する気はないが、安倍は見かけは子ども、頭脳は明治。何かを切り開くことはちょっと想像できない。

 岸のためにいっておくと、確かにこの時代はまだスプートニクショックがあった。ソ連はこわい、冷戦がいつか冷戦でなくなるとみんな思っていた。第一次世界大戦から第二次世界大戦まで30年、ということは1960年前後というのは、戦争への折り返しと考える人がいてもおかしくなかった。
 しかし冷戦が終了し、少なくとも当時考えられていた第三次世界大戦の可能性が遠のいた今、50年前の言葉をただ繰り返す総裁が果たして宰相の器なのかどうか。

 吉田はかつて、「番兵」に続けてこういったという。
「しかしね、アメリカはいつまでも利用され続けるとは思わない。必ず変わるときが来る。アメリカが引き揚げると言い出すときが必ず来る。その時が日米の知恵比べだよ。」

 そう、アメリカはいま日本にカネだけでなく人的な負担も引き受けさせて、まさにポチとして先頭に立たせようとしている。アメリカは中国台湾間のいざこざを日米での作戦の対象と考えている。実際には、アメリカがちょっとした攻撃を受け、日本が先頭に立って戦わされることになるだろう。おそらくアメリカは後方に退く。世界的に見れば、台湾は中国の一部であり、日本が介入したら一点の曇りもない侵略戦争である。今まさに、憲法改正をさせて軍備を持たせ、アメリカの属国として日本人が死ぬかもしれない、日米の知恵比べが始まっている。

 いまや世界から「ミリタリー・シュライン」といわれる靖国神社に首相が毎年参拝し、日本が軍国主義化しているという宣伝は世界に行き渡っている。意地になって参拝する幼児的な行動を「かっこいい」といっている間に、どんどん日本の地位は下がってきているのだ。韓国中国が愚かだといっている間に、実は見回すと敵ばかりになっている。ちょうど蒋介石が1940年頃アメリカでの宣伝戦に勝利したように、日本は世界を舞台にした宣伝戦にすでに敗れつつある。
 国連の「敵国条項」が適用される日本、狭い国土、核攻撃に最適な人口分布の日本が生き残る道を自ら狭めていく。
 仮に中国側と核を同じだけ打ち合ったと仮定すれば、中国人は死んでも100万単位、日本は少なく見積もっても2500万人が死ぬと考えられている。
 どうせ先の戦争では、日本軍に2000万人ほど殺されている。もしこの数字なら今度は中国にとっては大勝だ。中国はいよいよとなったらためらわないのではないか。その時アメリカは動かないだろう。本土を犠牲にして中国と打ち合うばかばかしいことをするより日本だけが犠牲になった方がずっといいから。中国もその取引が成立することを踏んでからでないとやらない。
 安倍で知恵比べに勝てるのか,われわれは本当に岐路に立っている。

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by luxemburg | 2006-09-23 22:43
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